「本当の自分の気持ちに気づく、伝える研究」

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研究者:清水里香
自己病名:統合失調症サトラレ型

06年におよそ7年ぶりに精神科に入院するに至り、自分の問題を直視していなかったことに気がついた。直面しないように忙しさにかまけて自分のケアをしていなかったため、自分の病気がまたぶり返してひどくなった。その時に自分のメンテナンスの仕方をすっかり忘れていて、どう自分の気持ちを切り替えたらよいのかが分からなくなったため、あらためて当事者研究をするに至った。


■ 苦労のプロフィール

自己病名は統合失調症サトラレ型。
発病当初から引きこもるという手段で身を守ってきた。地元では7年間引きこもりをしていた。

00年に浦河に来て、3ヶ月浦河日赤に入院し、退院後に一年間一人暮らしで引きこもっていた。01年、新築の共同住居「リカハウス」で暮らしはじめるもまた1年半引きこもる。そこで10代から60代まで、幅広い年齢層のメンバーと暮らし、10代の感覚を学んだり、ほかの人のケアなどをして鍛えられた。

03年からはリカハウスが高齢者専用住宅となり「レインボーハウス」へ移る。半年後ニューべてるの施設長にならないかとのオファーがきて引きこもり生活から脱する。
その後仕事に没頭し、あまりの忙しさに病気どころではなくなる。最近は、再びSSTなどに参加しながら自分と向き合うようになった。


■ 研究の目的と方法

当事者研究ミーティングに参加し自分の気持ちの状態を皆に話して、仲間からアドバイスをもらった。サトラレの苦労のサイクルを明らかにし、どうすればそれらとのつき合いが上手くなるかなどを研究した。


■ サトラレの苦労のサイクル

疲れてくるとサトラレがひどくなり、引きこる。
引きこもると孤立感がひどくなり「マイナスのお客さん」がやってきて、支配され、サトラレがますますひどくなり、それでも無理して「自分は施設長だから」とがんばってしまう。

そうしているうちに、本当の自分の気持ちをどんどん置き去りにしてしまい、ますます疲れる。

マイナス思考のお客さんは、サトラレと関連していて、常に心の中を見られていると思ってしまうため、こんなことを思ったり考えたり感じたりするとみんなが私を嫌うだろうなと思ってしまう。
それで自分も傷つく。

その結果、周りにもいやな思いをさせてるんじゃないかという、サトラレのマイナス思考のパターンが止まらなくなる。
マイナス思考のお客さんは自分から発しているような気がするから、考えすぎてそれが自分の気持ちのように思えてくる。

しかし本当の気持ちというのは寂しいとか、このストレスをどうやって癒していいか分からずにへとへとになっている自分というのが本当の自分の気持ちなのだった。

置いてけぼりの本当の自分の気持ちをちゃんと引っ張りだしてあげて、本当はこうなんだということを自分にも分からせて、周りの人にも聞いてもらうということが自分に必要だということがだんだん分かってきた。


■ 看板の書き換え

例えば人と会うとき、マイナス思考のお客さんが働いて、サトラレに振り回されて嫌な自分が出てきたらどうしようという恐怖感がある。

ミーティングが嫌だとか、この人が嫌だとかいうことではない。
本当はサトラレのサイクルに乗ってしまうような気がして怖くて行けないんだという、本当の自分の気持ちをみんなに伝えることが出来れば、周りも私を見る目が変わってくるし、私自身も自分を見る目が変わってくる。

普段の生活で「あぁ今日はべてるに行きたくない」と思ったときに、仕事だから行かなくてはならないし、行きたくないのはどうしてかということをきちんと伝えなければならない。

特に仕事で働かなきゃならないという時、それでも行かなければならないときに、マイナスのお客さんでいっぱいになってたら仕事にもならないし「実は今マイナスのお客さんやサトラレがばんばん入ってて、自分も傷つけるし周りも傷つけるような気がして怖くて身動きが取れないんです」ということをちゃんと伝えられるかどうかで、その日が左右される。

これが弱さの情報公開なのだと思う。
自分の本当の弱い部分は隠さなきゃいけないと思っていた。
嫌な自分や駄目な自分というマイナス思考に絡めとられてる自分とかを見せまいとするがために疲弊していた。

でもそれは本当に大事にしなきゃいけない自分の気持ちを置き去りにしていて必死になって作り上げた嫌な自分を隠そうとしていたわけで、置き去りにしていた本当に大事な部分の自分の気持ちを逆にみんなに見せることをするというのが、この看板の書き換えの核心だ。


■ サインの開発

看板の書き換えは、時としてとても困難だった。
例えば自分はこんな嫌なことを考えてるんだけど本当の自分の気持ちはこうなんだということを言葉にするのはどう思われるだろうと思ってしまう。
いつも、ありのままに言葉で伝えられるわけではない。

そこで、「コンコン」というサインを考えた。
このサインは扉をノックするように手で「コンコン」と「今マイナスのお客さんが来てるよ」ということを態度で現して、相手が「あぁマイナスのお客さん来てるんだ、サトラレ入ってるんだ、それでもOKだよ」という意味を込めて合図を返してもらうものだ。

「コンコン」と返してもらうと「あぁみんな分かってるんだ。私の辛い気持ちとかサトラレが入って情けない気持ちとか理解してくれてるんだ」と思えてほっとする。

講演先で電車に乗っていて、サトラレが来て自分を隠さなきゃと思ってガチガチになってる時に「コンコン」とすると、仲間が「コンコン」って返事してくれて、ちゃんと分かってくれてる人がいるんだという気がして落ち着く。


■ 研究を通して

当事者研究をしてことによって、自分が生きていくうえでどんな課題があるのだろうということが目の前に明らかになって来た。自分がいかに弱さの情報公開が下手だったかに気がついた。弱さを出すためのミーティングなどに全然参加できていなかった。

研究をしたことでそういうことを言い出しやすくなった。本当の自分を置いてけぼりにしちゃだめだなぁということが分かって、本当の自分というのは結構弱くて凹みやすいのだが、その凹みやすい自分の気持ちを何とか出すためには常に自分のケアをしていかなければならないということが分かった。

当事者スタッフとして仕事をしているとなかなか弱さの情報公開が難しい。どうやったら普段の生活の中で自分の弱さの情報公開が出来るかということがこれからもまだまだ練習課題だと思う。

私は感情を麻痺させることが得意だったが、それをやるとまた病気も悪化してしまうから、本当に自分の気持ちを大事にしながら働けるようになりたい。