「スケジュール混乱現象の解消」の研究

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「スケジュール混乱現象の解消」の研究 スケジュール・パッドの開発とその効果

坂 雅則

 

○はじめに

私は10年間という長い期間入退院をくり返し、今年の3月に浦河のピアサポーター仲間や病棟スタッフ、浦河べてるの家のスタッフなどの応援をもらい退院することができました。

久しぶりに地域での生活を始められたのですが、浦河べてるの家(以下べてる)で、昆布などの仕事をすると、「自分はいったい何をしたらいいのか」と不安になり、いつ・どこで・何をしたらいいかに関係した確認をスタッフに必要以上にとるようになってしまい、確認をとっても安心できなくて、最後に叫んで、物を投げ捨てたりの爆発をくり返してしまいました。

そこでべてるのスタッフに協力してもらい、日中のべてるでの自分の過ごし方について研究することになりました。開発したのが「坂雅則スケジュールパッド」(略称 坂パッド)」です。

○苦労のプロフィール

私の自己病名は「統合“質”調症スケジュール混乱金欠タイプ」です。

私は札幌市出身で、札幌で新聞配達をしてひとり暮らしをしていましたが、金欠の苦労から家族もお手上げ状態となり、2003年に浦河にやってきました。

当時の自己病名は「統合“質”調症・難治性月末金欠型」でした。

自己病名については過去に研究した「生活の“質”の研究」(『べてるの家の当事者研究』 発行 医学書院)にて紹介していますが、長年に渡る金欠の苦労で、何軒もの質屋と取引をしたり、金欠から親子関係が悪くなり、仕事にも行けなくなって、「仕事を探すな」「お金を返せ」という幻聴に苦しんで自殺しようとしたりの苦労をくり返してきました。

浦河に来てから、同じ苦労をしている仲間たちと一緒に金欠の苦労(技)を「生きのびる技」として研究・公開をし、2004年のべてるまつり「幻覚&妄想大会」で「ぱぴぷぺぽだったで賞」を受賞しました。

また金欠の苦労以外にも、あいまいなことに対して不安感を覚える苦労がありました。

入院中も看護師への確認行動が多かったため、退院後、べてるで就労を開始するにあたり、まず曜日ごとの1日のスケジュールをスタッフと立てることにしました。

でも、べてるで1日を過ごす中でスケジュール以外のことが起きてしまい、結局スケジュールを立てることに意味を見出せなくなり、何を何時にすればいいのかわからなくなった結果、スタッフへの確認行動が増えていきました。確認は複数のスタッフに何度もしていたため、スタッフごとに口約束のようなスケジュールを組み立てることになってしまいました。すると「Aさんはこう言っていたのにBさんは違うことを言う」と、ますます自分を混乱させてしまう状況が起き、それによる確認行動が周囲から攻撃的に見えるほどになって、結果的に自分の評判を下げることになってしまいました。

そこで、自分専用の「坂式スケジュールパッド」を手作りし、自分もまわりの人も同じスケジュールを共有できるようにしました。また,実際に予定が変更になっても、パット上にすぐ反映できる仕組みにしました。

○研究の目的

本当は、わからないことへの不安に対する自己対処のはずの確認行為が、相手に対する攻撃になってしまうので、苦労のメカニズムを解明しながら、結果として確認の負担が減って、コミュニケーションをスムーズにとれるようにするために研究を重ねました。

○研究の方法

日々の実験の中から生まれた新たな対処の方法を実際に試すことで、自分の変化やべてるでの日中の過ごし方の変化を検証し、さらによくする点を探り、仲間にも「今日のこれからの自分のスケジュール」を紹介するなどしながら研究しました。

○研究の内容

「現金を持たないまとめ買い方式」の実験

お金の使い方がわからないという苦労がありました。お金を持つと、何にどう使ったらいいのかわからなくなってしまい、「誰かにとられてしまう」という不安感も出てきて、そのためにお金を手に持つと「早く使おう」という気になってすぐになくなります。

そこで、スタッフの金銭管理サポートシステムを活用して、そこから定期的におこづかいを受け取っていたのですが、お金を持つとやっぱり仲間とのお金をめぐるトラブルからケンカが起きてしまいました。

そこで、「現金を持たないまとめ買い方式」を試すことになりました。

その方法は、週一回、自分に本当に必要な物をスタッフと一緒に買い、ストックしておいて、普段はそれを食べたり、消費するという方法です。最初はおもに“たばこ・魚肉ソーセージ・コーラ・ジョージア”でしたが、今ではカップラーメンや缶詰などバリエーションも増えて、買い物をして品物を直接手に入れるのが楽しみになっています。また、カップラーメンばかりだと健康面も心配なので、その分を他のお菓子に変更したり、節約のことも考えられるようになってきました。

この方式では、時計のタイマーを使って毎週決まった時間に買い出しに行くので安心できます。

<スケジュールパッド>

べてるでの1日の生活の中で、計画していたスケジュールとの細かな違いに対応できず、何をしたらいいのかわからないという苦労に対処するためにスタッフと編み出したのが“スケジュールパッドを使ったスケジュールの確認”です。

これは、段ボールの手作りのボードに、時間割の枠をつくって今日一日の予定を張りつけていくものです。

スケジュールパッドのいいところは、1日のスケジュールの項目が自由に動かせるようになっているところで、スケジュールのやりくりができるようになりました。スタッフと一緒に1日の予定をやりくりすることで、約束事をつくることができ、スケジュールに対しても安心できます。

今では外出するときもスケジュールパッドを片手に移動しています。

<確認カード>

「現金を持たないまとめ買い方式」やスケジュールパッドで安心できることは増えたのですが、スタッフに確認する回数も多くなってしまいました。

そこでスタッフと考えたのが“確認カード”です。

確認カードは、自分が今日、何回目の確認かを知ることができます。べてるの各作業所ごとに2回まで確認できると決めました。それを決めたことで自分自身にブレーキをかけられるようになりました。

<協力スタッフさんより>

坂さんのキーワードは、「不安」と「○○しすぎる」です。この2つのキーワードから新たな対処の方法を一緒に実践してきたことで、坂さん自身のべてるでの過ごし方に安心感が出てきたと思います。

ですが、時々、ブレーキをかけられなくなるときが出てきます。それは予定についての“あいまいな勧め”です。

たとえば「今度買い物ツアーあるかもよ?」「こんなのあるから今度来てみない?」などといった情報を仲間から勧められると、〝自分は出られるのか、出られないのか、どうすれば出られるようになるのか〟と考え、過去のやり方と今のやり方がぐちゃぐちゃになって混乱してしまいます。

そうなったときは「1回リセットしよう!」とはっきりと伝えます。坂さんの確認行動に対する対処の仕方は、
・1回受け止めること
・スケジュールに対しては担当者を決めて確認する相手を決める
・幻聴さんから「○○はするな」などと言われるときは、坂さん自身には「してもいいんだよ」と伝えるなどで、しつこい確認行動に対して、いかに冷静でいられるかが大事なポイントです。しっかりと坂さんが伝えたいことを聞き、1つずつていねいに冷静にこたえるようにしています。この点に関しては、坂さんに私自身も鍛えられたと思います。そして他のメンバーへの支援にも活かせています。

時々、何を伝えたいのかわからない「とんちんかんトーク」もやってきます。それに対しても話を理解するトレーニングになり、本当に本人が伝えたいことを見つけていきます。最近は、10回中1回は本人が満足できる答えを見つけることができており、そのときは本人とつながれた気がして私もうれしくなります。

○まとめ

スケジュールパッドのおかげでそのときの状況に合わせて確認でき、忘れてしまった内容も見ればわかるので安心できるようになりました。また、今までもあった、自分がはき違えていた内容も確認できるのがよいです。

1日の予定がはっきり書いてあるので、まるっきり自由だと悩んで迷ってしまう自分にはとても合っていると思います。